曲目/シューベルト作曲:
交響曲第8番ロ短調D.759「未完成」
1. Allegro Moderato 12:19
2. Andante Con Moto 11:47
交響曲第9番ハ長調D.944「グレート」*
1. Andante, Allegro Ma Non Troppo 12:32
2. Andante Con Moto 13:16
3. Scherzo: Allegro Vivace, Trio 7:58
4. Finale: Allegro Vivace 10:55
指揮/シャルル・ミュンシュ
管弦楽/ボストン交響楽団
管弦楽/ボストン交響楽団
録音/1955/05/02
1958/11/19* シンフォニー・ホール、ボストン
1958/11/19* シンフォニー・ホール、ボストン
P:リチャード・モール
E:ジョン・ノーマン、ルイス・レイトン*
E:ジョン・ノーマン、ルイス・レイトン*
RCA 88765414972-51
実はこの演奏を取り上げるのは2回目となります。以前はミュンシュの芸術としてRCAがロマン派の作品を纏めたものの一枚として取り上げました。同じ録音なのですが、こちらはRCAの「Living Stereo 60CD Collection」として発売された物の中の一枚です。ソニー系のボックスセットはダブりが多いので最近はほとんど買っていません。なにか発売に際してコンセプトが一貫していない様な気がします。今の所、ソニー系でしっかりしてるのはバーンスタインの交響曲全集と管弦楽全集、ワルター全集、ストラヴィンスキー全集ぐらいでしょうか。後は殆どが小出しにしていてどうも今ひとつ食手が動きません。現役時代バーンスタインよりも好セールスを記録したオーマンディなんかもその一人で、小出しのボックスセットはありますが、その全体像を俯瞰したものは未だに発売されていません。本来なら旧RCAとCOLUMBIAでステレオ録音のほとんどすべてをカバー出来ているはずなのにそういう企画は未だに出て来ませんし、セルにしても同様です。のっけから愚痴になってしまいましたが、まあ最近ソリストのものはなかなか充実して来ていますし、クラシックだけはCDという形態がまだ売れているようですので今後に期待したいものです。
さて、この60枚組のボックスセット、今までは最初から聴いていったものの途中でオペラが入っていたので挫折してしまっていました。そんなことで、今度はラストから聴き直していて51枚目のこの録音に辿り着きました。個人的にシューベルトの交響曲のなかで、「未完成」は余り好きな曲ではありません。ですから、何気なくこの一枚を聴き始めた時も期待していませんでした。それにしても、小生の気分も噪の状態にあったのかもしれませんが何と力強い「未完成」なのかと再発見した次第です。
どちらかというと、シューベルトの「未完成」はロマンティックな女性的なイメージの曲として、どうもムードに流れる演奏が多いように思います。演奏自体も指定のアレグロ・モデラートではなく、アンダンテよりも遅いテンポで演奏するものが主流のような時代がありました。最初にそういう演奏に接したのでこの曲がつまらなく思えてしまったのでしょう。ところが、このミュンシュの演奏はすこぶる男性的で、その骨太の音楽作りにびっくりしたほどです。ボストン交響楽団の演奏の第1楽章の低弦の響きは重厚で、シューベルトの作品がまさにドイツ本流の系統に属するものだということが如実にわかります。その上で、主部に入ると金管が弦に負けじと吹き鳴らされます。このバランスからしてシューベルトに弱々しさからこの音楽を解き放っています。そして、テンポはまさにアレグロ・モデラートです。アレグロは♪=132、モデラートは♪=92ですから、その中間ぐらいを取っています。理想的でしょう。ミュンシュの名盤といえばベルリオーズの幻想と供にブラームスの第1があげられます。つまりはどちらもきちんと振れる指揮者なんです。得難い存在でしたねぇ。残念なのは纏まった全集を録音していないことです。この為、どうしても日本での評価は下がってしまっている様な気がします。
多分この演奏は気分が落ち込んでいる時に聴くと、なんて場違いな演奏なんだと思う人が入るかもしれませんが、これが小生のように躁状態で聴くことになるとこれほどツボにはまった演奏はありません。第2楽章も変に深刻ぶらず淡々と演奏していますが、音楽心があるので聴き入ってしまいます。この当時のボストン響は5大オーケストラ一つで、ソロの演奏も粒が揃っています。
カップリングされている「ザ・グレイト」はシューベルトの交響曲の中でも一番好きな曲です。最初に購入したレコードもシューベルトはこの「ザ・グレイト」でした。それは、ヨッフムの演奏するもので小生の中ではディフェクトスタンダードになっています。しかし、このミュンシュの「ザ・グレイト」も捨て難い魅力を持っています。8番と同様。もったいぶらず淡々とした響きでホルンが主題を奏します。テンポはAllegro Ma Non Troppoですから、そのままの意味で取れば、速く、しかしあまり速すぎないように」という指示です。ミュンシュの演奏はまさにこの体感速度で演奏されています。この曲ではトロンボーンが活躍しますが、実はこの演奏、そのトロンボーンがやたら目だつ演奏になっています。そんなことで、見た目の美しさより、男性的な荒々しさを前面に押し出した演奏になっていて、聴くものをぐいぐい惹き付けていきます。
第2楽章もきりっと引き締まった表現で、小気味よいリズムで開始されます。ロマンティックな表現とはほど遠い解釈ですが、ベートーヴェン直系の作曲家ですから、こういうアプローチもありなんでしょうなあ。映像で残っているミュンシュの指揮は、長い指揮棒をぶんぶん振り回しています。見ている方は全部2拍子のようにとれます。これでついていくのですからオーケストラも大変でしょう。しかし、この時代のボストン響のコンサートマスターは、リチャード・バーキンですが、良く纏まっています。彼は副指揮者としても活躍していた人ですから、ミュンシュは小刻みにテンポを替えて雄大なドラマを描いていきますが、ミュンシュの要求は即座に理解しオーケストラを引っ張っていたのでしょう。滔々と同じリズムを刻む箇所も決してだれていません。弦は重厚、金管はやや強めに吹かせるという手法はここでも同じです。こういう指揮者のもとで吹く管楽器奏者は楽しくてしょうがないのではないでしょうか。躁状態で聴く小生も、こういうメリハリのある演奏で気分がスカッとします。トロンボーンのタンギングがはっきり聴き取れる演奏はそうそうあるものではありません。こういう演奏を聴くにつけ、ミュンシュにはシューベルトの交響曲全集も残してほしかったなぁ、と思ってしまいます。
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