曲目
ベートーヴェン/交響曲第9番「合唱付」OP.125
ベートーヴェン/交響曲第9番「合唱付」OP.125
ソプラノ:森 麻季
アルト:加納悦子
テノール:福井 敬
バリトン:妻屋秀和
指揮/パーヴォ・ヤルヴィ
演奏/NHK交響楽団
合唱:国立音楽大学(合唱指揮:田中信昭、永井宏)
NHKホール
アルト:加納悦子
テノール:福井 敬
バリトン:妻屋秀和
指揮/パーヴォ・ヤルヴィ
演奏/NHK交響楽団
合唱:国立音楽大学(合唱指揮:田中信昭、永井宏)
NHKホール
パーヴォ・ヤルヴィは今シーズンからN響首席指揮者に就任したのですが、その最初の年末に重要レパートリーのベートーヴェンの第9が聴けました。彼は既に手兵ドイツ・カンマーフィルハーモニー・ブレーメン(以下DKB)とピリオドスタイルの全集を完成させています。ですから、室内オーケストラ規模の演奏は知っているのですが、ここはフルオーケストラのしかも現代楽器を使ってのオーケストラを相手の演奏です。YouTubeで確認出来るDKBとの演奏は弦が12型の対抗配置でオリジナルの2管編成で合唱も50人ほどの規模ですが、映像で確認する今回のN響は弦は16型対の向配置、管は倍管の4管編成です。しかも、合唱団はなんと総勢235名の大規模編成というスタイルです。ただ、単に規模が2倍になっただけではありません。全体のバランスは比例して難しいはずです。
演奏時間を確認するとタイム的にはDKBとほとんど変わりません。ということはテンポは彼の基本のベートーヴェン解釈と変わらないというところでしょう。パーヴォ・ヤルヴィは昨年までドイツのhr交響楽団(フランクフルト放送交響楽団)のシェフをしていた訳ですからフルオーケストラでベートーヴェンの第九を振った経験はある訳です。ただ、オーケストラが違うということ、またヨーロッパとアジアという地域の違いがあり、同じベートーヴェンになるとは思えません。まあ、そこがこの組み合わせの聴き所という訳です。先の指揮者ランキングでもパーヴォ・ヤルヴィは現代の名指揮者のベストテンにランクインしている逸材ですからね。そのベストテンも年齢的に1960年代の指揮者は彼一人です。まあ、確かにこの年代でベートーヴェンの交響曲全集を録音しているのは他にいないのではないのでしょうか。そういう意味では、彼が現代における最高のベートーヴェン指揮者の一人ということが出来ると思います。
今年のN響との演奏は、基本的にはDKBとの演奏スタイルを踏襲しています。それは対抗配置もそうですが、ティンバニのマレットも古楽器演奏でよく見る小さくて硬めのもので、乾いた硬質の音でした。使用楽譜はベーレンライター新原典版で、弦は完全なDKBのようなピリオドスタイルではなく、少しヴィヴラードをかけた折衷スタイルになっていました。演奏スタイルはピリオド系の速いテンポで、グイグイと飛ばしていきます。それに全力でN響はついていきます。両者は完全に信頼し切っているような関係に見受けられます。
放送されるNHK交響楽団のコンサートは今までほとんど欠かさず聴いて来ましたが、最近の番組は今までとはやや趣きが変わって来ているように思いました。今はNKH交響楽団のホームページに動画ライブラリーがあって最近登場する指揮者なりソリストのインタビューが動画になっていますが、ヤルヴィの場合はそれだけでなく、最近のクラシック音楽館はプログラムの終了後、ヤルヴィが自ら登場して各界の著名なアーティスト達と語らうコーナーが出来ていますし、FM放送で中継された今年の初日の第九の演奏会の後は、わざわざ放送席まで乗り込んで語っていたのにはびっくりしました。そう、今年は先ずFM放送で生中継の演奏を聴いてある程度予習をして年末のテレビ放送を楽しみました。
ヤルヴィの演奏は、聴いた限りではハーディングらと同系列の若々しいベートーヴェン像でいろどられており、大編成なんですがサウンド自体は引き締まっており、アゴーギクは大きくドラマチックでエネルギッシュな演奏です。それは快速なテンポによるところも大きいのですが、オーケストラを巧みなバトンテクニックでドライブして、それがN響の見事なアンサンブルと供に美しい伽藍風の音楽を作り出していきます。同じピリオド系でも、昨年のロトとはまったく違うアプローチであることが分ります。今年のヤルヴィの演奏を聴くと昨年のロトの演奏が、かえって古風に感じられてしまいます。どちらかというと、近年のN響の第九ではノーリントンに近いものがあります。
さて、演奏は第1楽章は提示部のリピートを省略していました。これはDKBの演奏でもそうでしたから意外とは思いませんでした。このため、編成は大きいのですが、出てくるサウンドは筋肉質で、もちろん巨匠風のどっしりとした演奏とは肌合いが違います。第2楽章も同様なアプローチで、まさしく若々しいベートーヴェンで新しい世代の第九スタイルといえるのではないでしょうか。
ところで、こういう速いテンポだとどうしても第3楽章の演奏が気になります。巨匠風の演奏では今まで寝てしまうことがあったのですが、ヤルヴィの演奏ではこの第3楽章も寝る暇がありません。ヤルヴィは先の動画ライブラリーでは彼がもっとも好きなのは第3楽章と語っていたので期待していたのですが、この速いテンポでの演奏はメロディの美しさに浸る前に終わってしまったという印象です。また、第3楽章が終わり、間髪を入れずに第4楽章になだれ込むスタイルもGKBと同じパターンでした。まあ、合唱団は最初からステージに並んでいますからこういう形は考えられますけれどもね。
今回の演奏で特筆に値するのは、合唱の素晴らしさでしょうかね。ソリストといいパート合唱といい、さすが国立音大の合唱団です。N響との共演は毎年ということもありますが、安心して聴いていることが出来ました。そして、音のバランスに気を使ったというインタビューの通り、大音量のオーケストラと合唱のバランス、そして、各楽章に於けるソロ楽器とのバランスはこちらもかなり神経をいきわたした演奏でした。
デュトワとN響のプロコフィエフの交響曲全集の企画は頓挫してしまいましたが、このヤルヴィとN響はR.シュトラウスの交響詩の録音をスタートさせており、第1弾として、《ドン・フアン》と《英雄の生涯》のカップリングが発売されています。これからの録音にも期待したいところです。
ヤルヴィの第9はDKBの演奏がビデオで発売されましたのでそれを貼付けておきます。
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