発行 新潮社
新潮社YONDA?CLUBの非売品グッズ。動物園の休園日、パンダのYONDA君が動物たちに本を配ってまわります・・・さてどうなりますか。文字は無くイラストだけで進行するのですが、思わずほっこりしてしまうこと請け合いの100%ORANGE入魂・52ページ絵本。巻末には動物たちの読んだ本リストも。---データベース---
もう終了してしまいましたが、新潮文庫(Yonda?フェア)のプレゼント絵本です。 Yonda? CLUB(よんだくらぶ)は、新潮社によって1998年から2014年1月24日まで実施された、文庫の売り上げの増進のためのキャンペーンでした。そう過去形なんですね。16年間も続いたキャンペーでむ、同種の企画では最長のものです。もう終了してしまったので取り上げることにしました。つまり、一般販売されていない“希少絵本(非売品)”です。そんなことで、この本には奥付がありません。新潮文庫の応募券を30枚集めると貰える景品でした。他の京浜は時期によって色々かわりましたが、この「Yonda? Z.Z.ZOO」だけは最初から最後までキャンペーンの対象品目でした。
商品及川賢治さんが高校時代の同級生竹内繭子さん(今は夫婦です)と100%ORANGEを結成したのは1996年ごろです。最初の活動は、パソコンもまだWindows95の時代ですから、プリントゴッコを使ったポストカードの制作・販売からスターとしています。その後、絵本に進出し、子供が描いたようなシンプルで自由なタッチの絵が業界の目に止まり、この新潮社のキャンペーンに白羽の矢が立ちました。そのキャンペーン賞品の一つがこの絵本というわけです。ただし、これは、ただの絵本ではありません。文字がまったくありません。
そもそも、新潮文庫を読む世代というのはどう考えても中学生以上のいわゆるアダルトです。ですが、絵本って、基本子ども向けのものです。でもYonda?CLUBに応募する人はほとんど大人でしょう。で、考えられたのが、言葉をなくして絵だけでやったらそんなに子どもっぽくならないのではという大人の絵本という発想です。そうして、完成したのが、この「Yonda? Z.Z.ZOO」なんだそうです。
動物園でパンダが色々な動物たちに本を配って歩きます。それを見た動物たちの反応は泣いたり、笑ったり、黙々と読み進めたり・・・と様々なようすが描かれています。とてもシンプルな内容ですが、絵だけで物語を語れる、そのデザイン性の高さに感心します。登場する動物達はぞうにきりん、ライオン、ゴリラに亀、なまけもの、こうもり、さい、ひつじ、ぺんぎんなどです。一見無造作に取り上げられているようですが、動物の世界では夜行性と考えられているものが多数含まれています。
で、最後の3ページで夜本を読みふける動物達と動物園に来た人間達が失望する絵とお尻を向けて昼間に寝入る動物達のイラストが見事に読書を楽しんだ風情を切り取っています。当然この仕掛けのパンダも最後のページで寝ています。考え過ぎかもしれませんが、人間達へのアイロニーが込められていて、このおちには思わず納得してしまいます。
本編には文字はまったく登場しませんが、後の最後に別添えで動物達が読んでいた本の種明かしがあります。なるほど、こういうシチュエーションで動物達はそれぞれの本を楽しんでいたのかと微笑ましくなります。ぞうは面白くてページをめくる鼻がとまらなくなるし(読んだのは芥川龍之介の「羅生門・鼻」)、百獣の王ライオンは、意外に涙もろいし(読んだのはサガンの「悲しみよ こんにちは)、ゴリラは本を読んで人間のことを少しだけ見直すのがいいですね(読んだのはモリエールの「人間ぎらい」)。ひっくり返って笑い転げる亀は星新一の「ボッコちゃん」や北杜夫の「船乗りクプクプの冒険」を読んでいますし、ナマケモノが木にぶら下がりながら地面に置いた本を逆さまで読んでいるのは坂口安吾の「堕落論」!なんてのには笑ってしまいます。
さぁて、小生は明日東山動物園へ写真集も出したイケメンゴリラのニシローランドゴリラ「シャバーニ」を観に行きます。はたして、彼はこの本を読んでいるのでしょうか。それとも、昼間は寝ているのかな?