発行 立風書房
本書は多角的にオーケストラの楽しみかたを探る誌面構成となっている。名曲の秘密を大解剖、楽譜に書いていない編曲の現場など知らなかった情報を教えてくれる。また、楽器使用法の謎、作曲家の不思議な仕事、ワクワクするオーケストラの秘密がいっぱい!---データベース---
この本は2004年に出版されてます。思うにこの本が出版されたことで、音楽之友社は慌ててレコ芸で「究極のオーケストラ超名曲徹底解剖」なる企画を2005年から連載したのではないでしょうか。そして、取り上げた66曲を2010年にはムックとして発売しています。この本は「200CD」シリーズの中でも「音楽通」を自認する人のための極めて「オタク度」の高いシリーズです。そんなこともあり、レコ芸読者層にとっては最適な内容だったのでしょう。第1章なんかは、まさにレコ芸がパクったといっても良い内容です。それが証拠に、この本とムックの両方に執筆しているのは編者の金子建志、満津岡信育、安田和信の三氏です。但し、取り上げている曲目の解説はダブらないようですけどね。
目次としては次の内容になっています。
【目次】
第1章 オーケストラの名曲大解剖―この曲が面白い理由
第2章 過激な古典派管弦楽法―意表をつく音楽史の秘密
第3章 マエストロに質問です!―現場のスコア・リーディング法
第4章 指揮者達の隠しわざ!―これも解釈!やはり編曲?
第5章 オーケストラ編曲で愉しむ!―オリジナルよりゴージャスに聴きたい名曲
第6章 異稿の森をさぐれ!―スコアから検証する作曲家が望んだ音
第1章 オーケストラの名曲大解剖―この曲が面白い理由
第2章 過激な古典派管弦楽法―意表をつく音楽史の秘密
第3章 マエストロに質問です!―現場のスコア・リーディング法
第4章 指揮者達の隠しわざ!―これも解釈!やはり編曲?
第5章 オーケストラ編曲で愉しむ!―オリジナルよりゴージャスに聴きたい名曲
第6章 異稿の森をさぐれ!―スコアから検証する作曲家が望んだ音
で、この第1章で取り上げられている曲は、
ベートーヴェン 交響曲第9番「合唱」
ベルリオーズ 幻想交響曲
リムスキー・コルサコフ シェエラザード
ストラヴィンスキー 「火の鳥」
R.シュトラウス 「アルプス交響曲」
ラヴェル編/ムソルグスキー 組曲「展覧会の絵」
ベートーヴェン 交響曲第9番「合唱」
ベルリオーズ 幻想交響曲
リムスキー・コルサコフ シェエラザード
ストラヴィンスキー 「火の鳥」
R.シュトラウス 「アルプス交響曲」
ラヴェル編/ムソルグスキー 組曲「展覧会の絵」
という曲目になります。出版年代の違いということも合って(ムックの方はかなり雑誌掲載時と内容を替えている部分あり)で取り上げているCDの違いはありますが、例でいうとこの本では金子氏が担当していて、総説と各楽章ごとにそれぞれ見開く2ページを使って解説しています。ムックの方は平林直哉氏が4ページを使って取り上げています。ここで取り上げているディスクを比較すると、
<金子氏>
・チェリビダッケ/ミュンヘンフィル---1-ティンパニのアクセント変更
・ラトル/ウィーンフィル----1-ベーレンライター版に忠実
・ガーディナー/ORR---1-ベーレンライター版に忠実,快速
・トスカニーニ/NBC52---1-メトロノーム忠実テンポ
・カラヤン/ベルリンフィル1977---1-ティンパニ二人で叩かせる
・バーンスタイン/ニューヨークフィル---2-ホルンの旋律補強、ヴァイオリンオクターヴ上げに変更
・ワルター/コロムビア---2-ヴァイオリンのオクターヴ上げに変更
・マズア/ゲヴァントハウス---2-独自のティンパニのディミにエンド処理、4-ウィルヘルム3世献呈譜使用で合唱を強調
・ドホナーニ/クリーヴランド----2-フルートの語尾のオクターヴ上げ、マルケヴィチ版使用ヴァイオリン処理
・フルトヴェングラー/バイロイト祝祭管51--3-ブルックナー的テンポ拡大
・ノリントン/シュトゥットガルト---3-古楽器的解釈の快速テンポ
・ヘレヴェッヘ/シャンゼリゼ---3-ホルンのゲシュトップ奏法が聴きもの
・クレンペラー/フィルハーモニア---3-モダン楽器でニュアンスの変化に富んだ演奏
・フルトヴェングラー/フィルハーモニア54---4-フェルマータ、コーダの熱狂的な追い込み
・ザンダー/ボストンPO---4-超快速の解釈による演奏
・グッドマン/ハノーヴァー・バンド---4-トルコ行進曲は古楽器による代表的解釈
・チェリビダッケ/ミュンヘンフィル---1-ティンパニのアクセント変更
・ラトル/ウィーンフィル----1-ベーレンライター版に忠実
・ガーディナー/ORR---1-ベーレンライター版に忠実,快速
・トスカニーニ/NBC52---1-メトロノーム忠実テンポ
・カラヤン/ベルリンフィル1977---1-ティンパニ二人で叩かせる
・バーンスタイン/ニューヨークフィル---2-ホルンの旋律補強、ヴァイオリンオクターヴ上げに変更
・ワルター/コロムビア---2-ヴァイオリンのオクターヴ上げに変更
・マズア/ゲヴァントハウス---2-独自のティンパニのディミにエンド処理、4-ウィルヘルム3世献呈譜使用で合唱を強調
・ドホナーニ/クリーヴランド----2-フルートの語尾のオクターヴ上げ、マルケヴィチ版使用ヴァイオリン処理
・フルトヴェングラー/バイロイト祝祭管51--3-ブルックナー的テンポ拡大
・ノリントン/シュトゥットガルト---3-古楽器的解釈の快速テンポ
・ヘレヴェッヘ/シャンゼリゼ---3-ホルンのゲシュトップ奏法が聴きもの
・クレンペラー/フィルハーモニア---3-モダン楽器でニュアンスの変化に富んだ演奏
・フルトヴェングラー/フィルハーモニア54---4-フェルマータ、コーダの熱狂的な追い込み
・ザンダー/ボストンPO---4-超快速の解釈による演奏
・グッドマン/ハノーヴァー・バンド---4-トルコ行進曲は古楽器による代表的解釈
<平林直哉>
ベスト3
・フルトヴェングラー/バイロイト祝祭管51
・トスカニーニ/NBC52
・クレンペラー/フィルハーモニア
ベスト3
・フルトヴェングラー/バイロイト祝祭管51
・トスカニーニ/NBC52
・クレンペラー/フィルハーモニア
・ノリントン/シュトゥットガルト---1-クレッシェンドとディミヌエンドを交差させる
・バティス/メキシコ国立響---1-内声部が先にクレッシェンド
・ライナー/シカゴ---1-木管楽器のテンポを落とす。低弦を強調。
・ケーゲル/ドレスデンフィル---4-オーケストラを含め独唱、合唱も細部に到るまで緻密に演奏。
・メーリケ/シャルロッテンブルク---4-バリトン独唱で下の旋律を歌う
・アバド/ベルリンフィル--4--ティンパニの音不足(ミス?)、コーダのピッコロのオクターヴ上げ
・クーセヴィッキー/フランス国立放送---4-ヴァイオリンをオクターヴ上げる、トロンボーンにトランペットを重ねる改変
・コブラ/ブダペスト・ヨーロッパフィル---ただ遅いだけの演奏。前曲に1時間50分を要す
・バティス/メキシコ国立響---1-内声部が先にクレッシェンド
・ライナー/シカゴ---1-木管楽器のテンポを落とす。低弦を強調。
・ケーゲル/ドレスデンフィル---4-オーケストラを含め独唱、合唱も細部に到るまで緻密に演奏。
・メーリケ/シャルロッテンブルク---4-バリトン独唱で下の旋律を歌う
・アバド/ベルリンフィル--4--ティンパニの音不足(ミス?)、コーダのピッコロのオクターヴ上げ
・クーセヴィッキー/フランス国立放送---4-ヴァイオリンをオクターヴ上げる、トロンボーンにトランペットを重ねる改変
・コブラ/ブダペスト・ヨーロッパフィル---ただ遅いだけの演奏。前曲に1時間50分を要す
両者でダブる演奏も多々ありますが、解説で指摘している点はまったく一致していない所が面白いですなぁ。ところで、この本では解説にCDでのタイミングが表示されていて、て元にそのCDがあればその箇所を参照出来るのがありがたいです。その伝、レコ芸のムックの方はそういうことは無いので読んでいてもピンと来ない箇所が多々あります。
さて、こんな調子でこの本を読んでいるとなかなか進みません。ただ、コラムなどが充実しているので息抜きは出来ます。その一つがタイトルにもなっている「こだわり派のオーケストラの秘密」というものです。ここでは金子氏の幼少時の体験から、レコード時代の演奏はLP一枚の片面に収める為に無理矢理曲をカットして演奏しているものがあり、フィードラー/ボストンポップスのチャイコフスキーの「スラヴ行進曲」なんかは、SP盤のものは大胆なカットがあったようですし、よく耳にするハイフェッツのチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲はやたらカットがあるそうです。また、ソビエト時代の録音ではチャイコフスキーの「1812年」のスヴェトラーノフ/ソビエト国立交響楽団の演奏では帝政ロシア国歌の「神よ皇帝を護りたまえ」部分が、グリンカの「イワン・スサーニン」の旋律にすり替えられていたということもあったようです。これは、ソビエト時代の末期にビクターがフェドセーエフ/モスクワ放送響と「1812年」を録音した時もあったことのようで、その時は「ソビエト国歌」への差し替えをソビエト国外のみで販売という条件付きで原曲通り演奏されたということです。
確かにいわれてみればムラヴィンスキーやコンドラシンらの演奏で「1812年」や「スラヴ行進曲」は録音されていませんなぁ。ソビエト時代にはチャイコフスキーの楽譜が国家的に改ざんされていたということですな。
そして、極めつけはトスカニーニ、楽譜に忠実に演奏するというレッテルはここでは微塵にも語られていません。特にティンパニの改変は到る所であるようで、ブラームスの第1番の第4楽章のコラールの部分などは、もちろん原曲通りの演奏ではないのですが、この演奏が後世の指揮者や演奏者にも受け継がれているそうで、小沢征爾/サイトウキネンの1990年のヨーロッパツアーの演奏でのCDと映像の演奏では同じボストン響のエヴァレット・ファースが叩いているにも関わらず、CDではオリジナルの形で演奏されているものが、映像ではトスカニーニ流の叩き方をしているそうです。
こんなことを確認しながら読んでいるとちっとも先きに進まないのが本書で、そういう意味では読み応えがあります。絶版ですが一読の価値はあります。