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花一匁―養生所見廻り同心神代新吾事件覚

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花一匁―養生所見廻り同心神代新吾事件覚

著者 藤井邦夫
発行 文芸春秋 文春文庫

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 血を吐いて、小石川養生所に担ぎ込まれた“おしま”は、労咳で病状が進んでいた。そこに訪れた、尾崎平内と名乗る浪人。彼女に優しい言葉をかける様子に、新吾は、仲のよい夫婦の姿を見る。しかし、賭場荒らしに絡んで調べを始めた新吾がたどり着いた二人の悲しい過去とは?書き下ろし時代小説、神代新吾事件覚シリーズ第二弾。 ---データベース---

 主人公の神代新吾の第2弾です。このシリーズタイトルにあるように北町奉行所養生所見廻り同心という職業があったことはこの本で初めて知りました。これは、小石川養生所に詰めて、病人部屋の見廻り、鍵の管理、薬煎への立会い、賄所の管理、物品購入の吟味など、さまざまな仕事をこなす町奉行所の役職で、与力ひとりに同心二人で構成されていたようです。このシリーズありがたいことに登場人物の一覧が目次後に掲載されていて助かります。ただ、神代新吾以外の同僚の同心は登場しません。この巻の登場人物です。

◆主な登場人物
神代新吾:北町奉行所養生所見廻り同心
白縫半兵衛:北町奉行所臨時廻り同心。“知らぬ顔の半兵衛”と渾名される
浅吉:“手妻”の異名を持つ博奕打ち
小川良哲:小石川養生所本道医。養生所設立を建議した小川笙船の孫
大木俊道:小石川養生所の外科医
お鈴:小石川養生所の介抱人
宇平:小石川養生所の下働き
天野庄五郎:北町奉行所養生所見廻り与力。新吾の上役
本湊の半次:半兵衛配下の岡っ引
役者崩れの鶴次郎:半兵衛配下の岡っ引
柳橋の弥平次:南町奉行所吟味方与力の秋山久蔵から手札をもらう岡っ引
幸吉:弥平次の下っ引
雲海坊:弥平次の手先で、托鉢坊主
由松:弥平次の手先で、しゃぼん玉売り
勇次:弥平次の手先で、船頭


 基本的に養生所に関わるストーリーが中心ですから女性絡みの事件がほとんどです。特に、第1巻と第2巻は、女子供絡みが多く、そんなところがタイトルに現われているといってもいいでしょう。作者の藤井氏は時代劇ドラマの脚本家としてならした人なので、そういうところの展開はお手の物です。ただ、ストーリー的には平幼過ぎて、冒頭から結末が読めるものも少なくありません。読み流しには最適なんですが、もう少し捻りがあっても良さそうです。ただ、この巻の幾つかはちょっとそれらしい展開の話になっていますのでこれから先は楽しみなシリーズです。

●「第一話 手遅れ」
 神田川に架かる新シ橋で、大工の千造が斬られます。二件目の辻斬りが立て続けに起こって、人々は恐怖に怯え神田川沿いの道は夜になると人通りが途絶えます。そんなある夜、着流しの侍が辻斬りを恐れる様子も見せずに、新シ橋に差し掛かかります。そこへ、橋のたもとから頭巾を被った武士が、三人の武士を従えて現れ辻斬りを計ろうとしますが、着流しの侍の返り討ちにあって斬られます。この侍こそ、北町奉行所臨時廻り同心の白縫半兵衛でした。自らが囮になって辻斬りをおびき出したのです。

 辻斬りは深手を負いますが、逃げ去ります。翌日から犯人の追跡が始まりますが、足取りは掴めません。そこへ、小石川養成所の外科医の大木俊道が現われないことが分り、どこかの旗本屋敷に連れ去られたらしいことが判明します。旗本屋敷では町奉行所がおいそれとは手が出せません。しかし、養生所の医師の命がかかっていますので、割り出しに全力で当ります。相手はかなりの深出で、さらしを大量に必要すると読み片っ端から太物問屋を当ります。すると一つの武家屋敷が浮上します。新吾は浅吉とその屋敷に近づきある作戦に打って出ます。

●「第二話 花一匁」
 養生所の女入室患者のおしまを、浪人の尾崎平内が見舞います。養生所の裏手で、その平内を人相の悪い浪人松川と町人虎造が待っていたのが気になります。丁度浅吉が顔を出したので、新吾は尾行を頼みます。見舞いを終えた平内と松川、虎造の三人は湯島天神門前町の小さな居酒屋で夜まで時間をつぶした後に、大名家江戸下屋敷にある賭場に向かいます。浅吉もその賭場に潜入し様子をうかがいますが、頃合いになると突然虎造達が賭場荒らしに変身し、金をごっそり持ち逃げします。寸でに賭場を抜け出した浅吉は、その報告に新吾を訪ねます。

 賭場荒らしは瞬く間に江戸市中に知れ渡り、松川と虎造は捕まりますが、接点の無い浪人の尾崎平内はようとして行方が知れません。新吾は気に掛かったおしまとその周辺を探ることでおしまと尾崎平内の仲を知ることとなります。そこにはある旗本家の内紛が絡んでいました。おしまの病状が回復したところで、ふたりは川越に旅立ちます。里子に出された我が子に会いにいくために・・・ただ、それは江戸に帰るつもりの無い片道の旅でした。

●「第三話 嘘つき」
 手妻の浅吉は、浅草寺の境内で遊び人の清七の姿を見かけて跡をつけます。ところが、清七は駒形堂の裏手で何者かに刺され刺されて倒れています。浅吉は、その場から十五、六の下女姿の娘が泣きながら駆け去るのを目撃しますが、その事には触れず奉行所に報告します。ただ、話を聞いた白縫半兵衛は、事はそれだけでは無いと読取り、半兵衛配下の岡っ引、鶴次郎に浅吉を尾行させます。清七にはつるんでいた浪人の松村陣十郎がいました。白縫半兵衛は浅吉と供に賭場に潜り込みその松村を見張ります。二人はつるんで強請を働いていたのです。

 小石川療養所には3日ほど前から心の臓の病のおみよが寝込んでいました。このおみよには妹が居ました。新吾は二人の身辺を調べ、おみよのヒモが清七だったことを突き止めます。一方、松村陣十郎らは他でもいろいろ強請を働いていました。その一件で白縫半兵衛はこの一味の悪事を暴くことに成功します。新吾はおみよの妹のおしんが奉公先から姿を消したことで行方を置います。すると手首を斬って自害を計っていました。寸でのところで救出し療養所へ担ぎ込みます。おしんの口から清七殺しが語られますが、姉のおみよは私が殺したと言い張りながら事切れます。新吾は事を抑えるために、嘘を承知で白縫半兵衛に犯人はおみよであったと告げます。

●「第四話 狐憑き」
 戌の刻五つごろ、急患の始末に追われて帰りの遅くなった神代新吾は、神田川に架かる昌平橋で、白い被衣姿で白塗りに赤い眼と口の狐の面を被った人影が、神田八ツ小路から武家屋敷街の幽霊坂に消え去るのを目撃します。あまりの出来事に、提灯の柄を握り締めて呆然と見送ってしまいます。さて、ここから事件が始まるのですが、これには去る旗本屋敷の御家騒動が絡みます。この事件、御典医では如何ともし難いことから、その狐憑きを落としてくれと小石川養生所本道医の小川良哲に話が持ち込まれます。

 狐憑きを目撃していることで新吾が一枚噛むわけですが、これはなかなかのストーリー展開で、この巻の最後を飾るに相応しいストーリーになっています。御家騒動はクーデターが失敗しますが、それだけでは収まらない展開がその後にあるということでは一番読み応えがあります。まあ、それは読んでのお楽しみです。

 こういう展開ですと、次回作が楽しみになります。



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