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指切り―養生所見廻り同心神代新吾事件覚

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指切り―養生所見廻り同心神代新吾事件覚

著者/藤井 邦夫
発行 文芸春秋社 文集文庫

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 北町奉行所小石川養生所見廻り同心、神代新吾。南蛮一品流捕縛術を修行する、若く、未熟だが、熱い心を持つ同心である。新吾が、幼馴染みの養生所医師小川良哲、臨時廻り同心白縫半兵衛、手妻の浅吉らと共に、様々な事件にぶつかり、悩みながらも成長していく姿を描く、書き下ろし時代小説「神代新吾事件覚」シリーズ第1弾。 ===データベース===

 作者の藤井邦夫さんは以前は脚本家で、「特捜最前線」では助監督兼脚本家として活躍しました。また、暴れん坊将軍シリーズや「水戸黄門」シリーズの時代劇から特撮ものの「スーパー戦隊シリーズ」まで手がけています。まあ、脚本家上がりの作家ということが出来ます。そんなことで、文体は脚本のように短いセンテンスで纏められていますから読みやすくもあります。そして、これまでの時代劇シリーズに、

「秋山久蔵御用控」シリーズ(KKベストセラーズ)ベスト時代文庫
「知らぬが半兵衛手控帖」シリーズ(双葉文庫)
柳橋の弥平次捕物噺(二見時代小説文庫)

 などがありますが、この小説「養生所見廻り同心神代新吾事件覚」はこれらのシリーズと絡み合っていて、この第1作から白縫半兵衛は早速登場します。小生がこの小説を手に取った一番の興味は「養生所見廻り同心」という言葉があったからです。普通の同心絡みの小説は定町廻り、臨時廻り、隠密廻りの“三廻り同心”が中心に話が進みます。すこし拡げても例繰方同心ぐらいでしょうか。それが今回聴き慣れない「養生所見廻り同心」というタイトルが付いているので、ちょっと調べてみました。「勘定所から養生所に出張している役人を監視する役目。与力一騎が随時巡回し、同心二人が交代で勤務する。」という役職です。早い話しが会計監査の役目というのが本来の仕事のようです。

 ということで、この小説の主人公、神代新吾は通常の仕事は、病人部屋の見廻り、薬煎への立会い、物品の購入など、言わば「行政マン」です。ただし、上記の三廻りに憧れる若者というのが基本設定です。

 舞台となる小石川療養所は小石川の薬草園内に享保7年12月7日につくられた公立病院です。費用は勘定奉行所勝手掛から出ており、医師は若年寄支配だったのですが管理は町奉行所支配だったということでこの役職が存在します。ここでは三廻りではないので、事件に関しても、上役に命令されて、本人自ら調べるということはありません。自分が出会った事件を、言わば正義感から「趣味」で調べるというレベルです。養生所は庶民がただで病気を看てもらう場所。事件の発端もここになる場合がほとんどです。そんなことで、役人として是々非々で判断し、必ずしも法に基づいて機械的に処理するということはしません。見逃すことも平気でできます。そういうところがこの小説に惹かれるところです。

 そんな神代新吾は南蛮一品流捕縛術を得意としています。これは、実際にあった流派だそうです。そして、事件の解決には新吾の隣の組屋敷に住んでいる臨時廻り同心の白縫半兵衛が活躍します。何といっても臨時廻り同心ですから、捕縛はお手の物です。この若者と老練の組み合わせが良いですね。そして、最初の事件で偶然助けたことから登場する手妻の浅吉が後のそれぞれのストーリーに重要な絡みで登場します。この浅吉、口減らしで見世物一座に売られて、手妻(手品)を仕込まれた渡世人です。第1作ではその素性は細かく描かれていませんが、裏の世界にはかなり顔が利きます。少しシニカルでひねくれているところがある人物であり新吾と同じ年齢という設定で、町人と武家という関係ではなく、友人として対等な口をきかせています。そういう人物が、影となって新吾を助けます。良い設定です。

指切り
待ち人
地蔵堂
渡世人

という4作品が収められていますが、養生所関係でこれだけ事件が起こるのですから、これからの展開が期待出来ます。なお、このシリーズ第3巻までが毎月発売されるという集中展開で、あっという間に人気知リーズになったようです。



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