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星野之宣/「星を継ぐもの」

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星野之宣/「星を継ぐもの」

著者 星野之宣
原作 ジェイムズ・P・ホーガン
発行 小学館 小学館コミック

イメージ 1


 SF文学の金字塔に新解釈を加えて漫画化! 時空を超えるミステリー! 西暦205X年、月で深紅の宇宙服をまとった死体が発見された。だが、どれほど歴史をさかのぼっても該当者は見当たらない。そして誰も予見しない驚愕の事実が浮かび上がる。遺体はなんと5万年も前のものと鑑定されたのだ!
ネアンデルタール人やクロマニョン人が毛皮や石器を身に着けていた5万年前に、月に宇宙服を着た人が!? SF文学界の巨星・ホーガンの名作を、漫画界の巨星・星野之宣が独自の解釈を加えて描く! ---データベース---

 このコミックは全4巻で構成されています。原作があるので構成はしっかりしています。SFは好きですが、この作品は知りませんでした。(^▽^;)そんなことで、原作よりも先にコミックで読むことにしました。星野之宣の手になるコミックは原作を基本としながらも独自性を取り入れた作品になっているようです。章立ては以下のようになっています。

第1話 月面の死体
第2話 焼失
第3話 異星の魚
第4話 惑星ミネルヴァ
第5話 ジュピター5
第6話 ガニメデの宇宙船
第7話 ミネルヴァ大戦
第8話 惑星消滅

 原作はハードSFというらしいのですが、早い話しがSFの本流ということでしょう。SFは、本来「サイエンス・フィクション」の略ですが、我が国でも昔は「空想科学小説」という用語が使われていました。この意味で、SFと科学とは切っても切れない関係にあったはずです。それがいつか、SFの意味する範囲が広がって、科学とほとんど無関係なファンタジイや冒険小説のたぐいもSFと呼ばれるようになってしまいました。多分星新一氏がショート、ショートで描いた世界がそんなような感じで、SFかファンタジィの境目が無くなってしまったような気がします。まあ、こんなこともあり、本来のより科学性の高いSFを「ハードSF]と呼ぶようになったのでしょう。そのハードSFの最たるジェイムズ・P・ホーガンのSF「星を継ぐもの」を、星野之宣が漫画化したものが本書です。まあ、 星野之宣は以前、ホーガンの「未来の二つの顔」を漫画化したことがあるので、この出会いは必然的な流れだったのでしょう。

 この「星を継ぐもの」は、月面の裏側で宇宙服を着た死体が発見されるところから物語が始まります。この月面の裏側という設定がいいですね。アメリカのアポロ計画で探査された月面はいわゆる表側だけで、裏側はまだ未踏の地です。今までに撮影された写真を見ても、月の裏側は表側とちょっと様相が違います。そこをついた設定なんですね。で、その死体は、5万年前のものだとわかります。 月には酸素がないので風化せずにそのままの状態で保存されていたんですなぁ。「チャーリー」と名付けられた死体は、果たして人類(ホモ・サピエンス)なのか? 人類だとしたら、月面で何をしていたのか?……という謎解きを軸に据えたSFミステリである。この掴みからして、SFファンにはゾクゾクものです。

 ところで、冒頭、科学者のハントが国連宇宙軍のコールドウェルと出会うところで、おやっと思います。原作では男性なんですが、 星野之宣は、コールドウェルを女性に変えているのです。 しかも月面に向かう途中で国際平和委員会のニールス・スヴェレンセンと出会っているのですが、壮年ではなく老人という設定に変えています。もっとも、ホーガンの原作では、このスヴェレンセンや平和委員会の議長のヴェリコフは「星を継ぐもの」ではなく、シリーズ3作目の「巨人たちの星」で登場するキャラクターなんです。こんなことで、この第1巻はこのシリーズの原作をちょっとシャッフルして、「星を継ぐもの」の謎解きと「巨人たちの星」の名ばかりの平和委員会の陰謀を同時進行させようとしているのだとわかります。こういうところは、全ての作品に精通していて初めて出来る特権でしょう。コミック版のストーリーが、善と悪という構造をくっきりと際立たせています。

 さて、この第1巻では、地球の歴史、人類の歴史に触れていて、これがなかなかの解釈です。そして、太陽系の火星と木星の間に横たわる小惑星帯の謎に突いても、こり原作は見事にその関係性を描いています。そして、月はこの小惑星帯から何らかの作用で地球の軌道にはじき飛ばされたものと仮定することによって、この小惑星帯にかつて存在した惑星に地球より優れた文明が栄えていたという大胆な発想でストーリーを組み立てています。それを、星野之宣が的確な視覚的表現で物語を勧めていきます。

 月での探索は、国際平和委員会の陰謀で中止されてしまいますが、その後すぐに木星の衛星「ガニメデ」で、墜落していた宇宙船を発見することにより、物語は急展開していき、わくわくの第2巻に続いていきます。

 第2巻でも5万年の謎を追い、何故恐竜が絶滅したのかという疑問にも一つの解答を出しています。古生代デボン紀に出現して広く世界の水域に栄えたシーラカンスが、約6500万年前(中生代白亜紀末)に殆どが絶滅した中で、現代でも生息しているのに比べ、何故恐竜だけが絶滅したのかの謎は、今まで、小生の頭の中では疑問符だったのですが、このコミックで示された解釈はある程度納得のいくものでもあります。

 さあ、SFに興味があり、恐竜時代に興味のある人は、是非ともこの「星を継ぐもの」を読んで欲しいものです。




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