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バーンスタイン、ゼルキンのベートーヴェン/ピアノ協奏曲第3番、5番

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バーンスタイン、ゼルキンのベートーヴェン/ピアノ協奏曲第3番、5番

曲目/ベートーヴェン
ピアノ協奏曲 第3番 ハ短調 Op.37
1. Allegro Con Brio 15:41
2. Largo 10:59
3. Rondo: Allegro 9:37
ピアノ協奏曲 第5番 変ホ長調 Op.73「皇帝」*
1. Allegro 19:36
2. Adagio Un Poco Mosso 8:45
3. Rondo: Allegro 9:59

ピアノ/ルドルフ・ゼルキン

指揮/レナード・バーンスタイン
演奏/ニューヨーク・フィルハーモニック

録音/1964/01/20
   1962/05/01* マンハッタンセンター ニューヨーク

P:ジョン・マックルーア

SONY 8843013302-08

イメージ 1
 
 バーンスタインのCBS時代の管弦楽、協奏曲エディションの8枚目です。バーンスタインとルドルフ・ゼルキンの共演盤ですが、何故かCBSはゼルキンの全集をオーマンディとバーンスタインとでバラバラに収録しています。バーンスタインの方はグールドとの全集が頓挫していましたのでその穴埋め的にゼルキンを起用したのでしょうか。第5番「皇帝」の方は1962年の録音ですが、第3番は1964年です。で、オーマンディとの残りの曲は1番と2番が1965年、第4番が1962年とちぐはぐです。これだけ見てもCBSのプロジェクトが混乱していることが分ります。なぜ、こんなことになっちゃったんでしょうね。まあ、こういうちゃらんぽらんなことで、小生はレコード時代はCBSのベートーヴェンのピアノ協奏曲は一枚も持っていませんでした。小生が推測するに、バーンスタインのCBSとの契約で録音レパートリーの優先権があり、演奏会スケジュールに合わせてゼルキンとの第3番、第5番の録音がなされたのでしょうが、この時代セールス的にはオーマンディ/フィラデルフィアのレコードの方が売れていました。そういう経緯があるので、ダブらない部分に付いてはセールスの期待出来るオーマンディ/フィラデルフィアとの録音を優先させたのではないでしょうか。まあ、この5番を録音すれば1962年当時、バーンスタインのベートーヴェンのピアノ協奏曲全集は第2番はモノラルながら、完成することが出来たのです。ところで、1962年の5月1日にはベートーヴェンの合唱幻想曲も収録されていましたが、これとカップリングする曲がありません。そんなことで、1964年の共演の機会に第3番を録音してなんとかMS6366という形で発売することが出来たのでしょう。
 ルドルフ・ゼルキンの名も室内楽ではその名を知っていましたがまだ、手を出すほどクラシックを聴き込んでいなかったのでまったく未知のピアニストでした。ゼルキンを聴くきっかけはテラークから発売された小澤/ボストン響とのベートーヴェンのピアノ協奏曲が最初でしょうか。その後、ゼルキンはDGにアバドとモーツァルトの後期のピアノ協奏曲を連続して発売するようになり、一気に小生のレパートリーに加わります。

 さて、この第3番ですが、グールドと続けて聴くとそのテンポの違いにびっくりします。やはり、グールド盤はグールドの指定テンポなんですなぁ。ここでは、バーンスタインが主導権を持っていると見えて、速いテンポでグイグイと音楽を進めていきます。参考までにデータを比較すると次のようになります。

演奏/録音年第1楽章第2楽章第3楽章
オーマンディ/フィラデルフィアO〔1953)14:589:478:45
バーンスタイン/ニューヨークフィル 〔1964年1月〕15:4110:599:37
小澤/ボストン響〔1982年10月〕16:599:3410:15
ケンプ/バーンスタイン/ニューヨークフィル 〔1966年10月〕16:1510:119:49
グールド/バーンスタイン/コロムビア響〔1959年5月〕17:1610:499:33
バックハウス/イッセルシュテット/ウィーンPO〔1958年〕16:439:399:24

 ゼルキンも年と供にテンポが遅くなっているととるとそれまでなんでしょうが、同時代の他のピアニストでももう少しゆったりとしたテンポで演奏しているので、ここはバーンスタインペースのテンポということが出来ます。そんなことで第1楽章の冒頭のオーケストラのパートは、ややせかせかした印象がありますが、コロムビア響との違いは明瞭で実にしっかりとした音楽設計がなされています。各パートの鳴らし方も力強さが感じられ、バーンスタインはここで、ベートーヴェンがモーツァルトからの飛翔を遂げた音楽として捉えていることが分ります。こういう設計なのでそのあと出てくるゼルキンのピアノ音色もこれに負けじという気迫が感じられます。まあ良く聴くと、グールドばりにゼルキンの唸り声を聴き取ることが出来ます。それにしても、ゼルキンの指はこの当時よく動いていてテクニックの凄さにも感服してしまいます。この録音はマックルーアが担当していますが、このマスタリングは成功しています。

 これとは対照的に、叙情的な第2楽章ではゆったりとしたテンポで第1楽章とのコントラストを明確にしています。これがバーンスタインのラールゴなんでしょう。いつもはゼルキンを評して「謹厳実直」なんて呼び方をしていますが、ここでのゼルキンはバーンスタインのテンポの中で非常にロマンティックな音楽を形作っています。こういう演奏を聴くと、カラヤンがアダージョならバーンスタインはラールゴじゃなかったのかと思いたくなってしまいます。

 最後の第3楽章のロンドでは、また一気にテンポを上げてくるのかなと思っていたら、どっこい地に足がついた演奏でしっかりとリズムを刻む音楽になっています。グールドならここでちちょっと跳ねたような演奏になっているのですが、ゼルキンはそういう仕草は見せません。そんなことで、すこし纏まりすぎている感があります。録音から発売まで間が空いたのも、70年代にこの録音がほとんど評価されなくなったのはこういう点がマイナスになったのかもしれません。

 これに対して、第5番の方はなかなかしたたかな演奏です。ただ、ゼルキンのピアノに対してもこちらはバーンスタインが張り切りすぎた感があります。自信もピアノを弾くということではバーンスタインはテンポについても一家言持っているのかもしれませんが、聴く方としてはもう少しどっしりと構えたテンポで開始してもらいたいもので、ここではやや前のめりの印象があります。個人的には3番が良かったので期待したのですが、やや肩すかしを喰った感じです。

 ゼルキンのピアノもテクニック的には申し分無いのですが、やや同時代の演奏の中では浮いているような気がします。CBSは持ち駒が多かったせいか起用法に一貫性がなく、纏まりの無い録音で損をしたんでしょうなぁ。レコード会社の専属制がもたらした弊害でもあるのでしょう。でもしかですが、バーンスタインルービンシュタインがタッグを組んでベートーヴェンを録音していたら凄い名盤が生まれていたような気がするんですがねぇ。

 さみしいことに、ネットではオーマンディと組んだ録音の音源はありますが、バーンスタインとの音源は皆無です。人気がないんでしょうかね。


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