曲目/ベートーヴェン
ピアノ協奏曲 第3番 ハ短調 Op.37
1. Allegro Con Brio 17:16
2. Largo 10:49
3. Rondo: Allegro 9:33
ピアノ協奏曲 第4番 ト長調 Op.58
1. Allegro Moderato 19:19
2. Andante Con Moto 6:40
3. Rondo: Vivace 10:47
ピアノ/グレン・グールド*
指揮/レナード・バーンスタイン
演奏/コロムビア交響楽団*
ニューヨーク・フィルハーモニック
演奏/コロムビア交響楽団*
ニューヨーク・フィルハーモニック
録音/1959/05/4.5.8 コロムビア30番街スタジオ*
1961/03/20 マンハッタンセンター ニューヨーク
1961/03/20 マンハッタンセンター ニューヨーク
P:ハワード・スコット
E:フレッド・ブラウト
E:フレッド・ブラウト
SONY 8843013302-06
バーンスタインのCBS時代の管弦楽、協奏曲エディションの7枚目です。バーンスタインとグールドの共演はこの後、1962年のブラームスのピアノ協奏曲第1番のライブまでありません。セッションとしては決別の録音という訳です。第3番の方は、敢えてコロムビア交響楽団とのセッティングです。この年のスケジュールではコンサートでこのピアノ協奏曲第3番はプログラムにありません。つまり、これは明らかに特別に組まれたセッションという訳です。普段なら1日で録り終えてしまう録音に3日もかかっています。まあ、3日目はカデンツァだけの収録ということですが、それにしても、バーンスタインの録音セッションとしては異常です。で、注意深く聴いてみるとやはりカデンツァで音場が変わります。オーケストラのいないところでのピアノだけの収録ですからエコーがやや不自然にかけられているように響き、ここだけ別テイクで録られていることが分ります。それにしても、グールドのテンポは遅いです。
第1楽章の長い序奏はアクセントを強く付けたものでして、この協奏曲にしては異彩を放つ音楽になっているようにも思えます。どちらかというとこの部分のバーンスタインはどっしりとした音作りで始めています。処がグールドのピアノはやや軽めに入って来ます。もともとグールドは根のように軽い俊敏なタッチの音でした。これを満足させるのがトロントの百貨店の上にあるホールの片隅に眠っていた古びたスタインウェイでした。CD318というピアノで、多分このピアノをニューヨークに持ってくるためにこういう録音スケジュールが組まれたのではないでしょうか。そして、第1楽章からグールドのうなり声が聴こえます。たぶん、ここではグールドの音を優先させるということで、かなり録音はハイ上がりの録音となっています。オーケストラもコロムビア響という行ってみれば寄せ集めで編成もかなり小さめです。ヴァイオリンの音など、かなり薄く聴こえます。そして、音楽のあちこちに椅子のきしみの音が聴こえます。小生は別にグールドの信奉者ではありませんからこの演奏が特に凄いとは思いませんが、グールドどっぷりの人はこの彼のタッチが好きなのでしょう。レコード時代はグールドは有名なゴールドベルクもモーツァルトも何も持っていませんでした。まあ、バーンスタイン自体に興味を持っていなかったのでこういう録音があったということも知りませんでした。でも、客観的に見ても、この時代の録音はバックハウスやケンプのものが一番良かったかなと思われます。
この第3番で聴きものは、第2楽章でしょうか。ゆったりとしたテンポはグールドの個性が、かなり出てきます。この楽章も遅いテンポでピアノの響きを確かめながら弾いているように聴こえますが、他のピアニストと比べても極端に遅いということはありません。ただ、バックのオーケストラは木管のソロにしてもややぶっきらぼうでリリカルで繊細なピアノの響きに比べてあまりにもソリが合っていないように感じます。ここら辺りが、所詮寄せ集めのオーケストラということが露呈してしまうところでしょう。
最後の第3楽章は軽やかなピアノが曲想にピッタリなところがあって、グールドのリズム感の良さもあって、なかなか楽しく聴くことができます。ただし、オーケストラはリズムをくっきりと刻んでいてピアノの音との乖離を感じてしまいます。タラネバですが、グールドのピアノの響きならピリオドオーケストラとの共演の方がぴったりだったような気がします。そんなことで、この曲の中では取り立てて特徴のある演奏という訳には行かない様な気がします。
さて、ここまで書いて来てネットで音源を探したら意外にも1955年のものが引っかかりました。こちらは同じCBS交響楽団ですが、指揮はヘインツ・ウンガーです。この演奏は冒頭から速いテンポで進んでいきます。そして、グールドのソロも早めに展開していますから、ここでのテンポは指揮者の指示ということであればバーンスタインとの録音もバーンスタインのテンポということになります。4年間で何か心境の変化があったのでしょうか。個人的にはこちらの演奏の方が魅力を感じます。
ピアノ協奏曲第4番も傾向としては同じと言えるのではないでしょうか。この曲はピアノの独奏から入りますから第1楽章のテンポはグールドの指定ということが出来ます。この当時の録音としてはバックハウスやケンプは17分台でしたから、遅いテンポの演奏ということが出来ます。ただ、残されているバーンスタインのアラウやツィマーマンの演奏も大体19分台から20分台ですから、どっちもどっちです。ここでは二人の意見は合致していたのでしょう。グールドは、この曲でもカデンツァはベートーヴェンの書いたものを使用していますのでそういう意味では非常にオーソドックスな演奏といえます。ただ、バーンスタインとグールドが決別した背景には、曲の解釈による意見の違いと供に、グールドは演奏中に片手があくと、その手で指揮を始める癖があったようです。個人リサイタルならともかく、オーケストラとの共演でも振り続けるので、「ステージに2人も指揮者はいらない」と怒りを買ったといわれています。バーンスタインとは全集がならなかったのですが、第5番の「皇帝」を指揮したストコフスキーとの打ち合わせではテンポはストコフスキーに合わせるという発言をしているところを見ると、よく引き合いに出されるブラームスの一番でテンポの解釈が違ったことが原因のように思われがちですが、本当はこの仕草がバーンスタインの気に触ったのが本当のところだったのではないでしょうか。
第2楽章もスケールの大きな演奏です。この時グールドは29歳ですが、老大家のような解釈です。3番に比べればこちらの方がオーケストラの質は格段に上です。この録音については、その前の3月16、17、19日と定期で共演しています。そして、この20日の一日だけのセッション録音ということで、バーンスタインのペースで進められたことが分ります。まあ、3日間の共演の成果というものなんでしょう。ポロンポロンと止まりそうなテンポですが、見事な幻想的雰囲気を醸し出していますし、オーケストラも憎いばかりのバランスでつけています。多分このCDの白眉の演奏ではないでしょうか。その第2楽章の演奏です。
グールドはこのベートーヴェンのピアノ協奏曲は第4番を一番得意としていたようで、一番多く共演したことがし競れています。そういう自信に溢れた演奏がこのセッションには刻まれています。第3楽章は幾分速いテンポで、完璧なテクニックで演奏されています。まあ、いつもながら興に乗ってくると鼻歌が出て来ていますが、それだけ興に乗った演奏だったのでしょう。この第4番ではぎくしゃくしたところが録音からは感じられません。ジャケットの裏を見るとコピーライトのマークが2014年になっていますが、聴感上テープヒスが多く、マスタリングはあまり成功しているようには思えないのが残念です。