発行 山川出版
幕末維新の動乱、震災、戦争により日本の風景は一変した。日本の初期写真が写した150年前の人びとの暮らしと生活、そして日本各地の風景は、現在はない。「記憶」から「記録」へ、それ故に古写真は貴重な歴史資料である。飴細工、スイカ売り、指物師、食事の支度をする人たち、松島、鎌倉、中禅寺湖、有馬温泉、伊勢神宮ほか。 ---データベース---
以前、幕末の写真集を取り上げたことがあります。「幕末日本の風景と人びと-フェリックス・ベアト写真集」という本をとりあげたことがあります。この本は1987年に発行されたものですが、その前年に朝日新聞社が主催した「よみがえる幕末」という巡回展が口火となって、さまざまな幕末明治初期の写真集が刊行された中の一冊でした。後に取り上げた、「写真で見る江戸東京」もその流れに乗った一冊でした。
今回の「レンズが撮らえた150年前の日本」は2013年に、それまでの研究、発見の成果をふまえた本で、歴史教科書では実績のある山川出版が発行したものです。小生もこの本でまた新しい幕末期の写真を目にすることが出来ました。日本の初期写真集は海外に流出したものが非常に多く、海外での研究により新しい発見が続々と発表されています。そういう最近までの成果がこの本に繁栄されているのです。
さて、この本の章立てです。
カラー特集 写真で見る幕末・明治
●主な写真
人力車に乗る女性/団扇を持つ女性/横浜ステーション/
人力車に乗った女性/駕籠に乗った女性/さまざまな髪型/
後ろ姿/日光東照宮唐門/芝増上寺有章院/霊廟/飴細工屋/
西瓜売り/雲竜水/笊売り/指物師/甘酒売り/大八車
●主な写真
人力車に乗る女性/団扇を持つ女性/横浜ステーション/
人力車に乗った女性/駕籠に乗った女性/さまざまな髪型/
後ろ姿/日光東照宮唐門/芝増上寺有章院/霊廟/飴細工屋/
西瓜売り/雲竜水/笊売り/指物師/甘酒売り/大八車
150年前の日本のすべて
■モノとしての初期写真/三井圭司
幕末~明治中期に制作された写真の所蔵調査について
幕末~明治中期に制作された写真の所蔵調査について
■海外に流出した日本の初期写真/セバスティアン・ドブソン
■風景写真を読む - 江戸から東京へ/松本建
■幕末維新期の古写真から読み解けるもの - 軍事史情報を一つの例として - /淺川道夫
■服装から見る幕末・明治の写真/藤井裕子
■文明開化とともに花開く近代の装い/津田紀代
風俗と職人たち
●主な写真
オランダ人と日本人町人/若き日のトーマス・グラバー/
渡し舟/凧/化粧廻し姿の力士4人と行司/茶店/
頭に荷物を乗せて運ぶ大原女/托鉢の尼僧
●主な写真
オランダ人と日本人町人/若き日のトーマス・グラバー/
渡し舟/凧/化粧廻し姿の力士4人と行司/茶店/
頭に荷物を乗せて運ぶ大原女/托鉢の尼僧
女たちと生活
●主な写真
煙管を持つ女/食事の支度/茶店の女客と給仕女/島原太夫/
若い女性の集合写真/スタジオの女性たち/
和傘を持つ三人の娘たち/芸者踊り
日本各地の風景
●主な写真
松島/中禅寺湖/上州大渡村/桜田門外諸官省/靖国神社/
川崎大師の鐘楼/鎌倉/宮ノ下富士屋ホテル/伊勢神宮/
三条大橋/有馬温泉/錦帯橋/阿蘇
●主な写真
煙管を持つ女/食事の支度/茶店の女客と給仕女/島原太夫/
若い女性の集合写真/スタジオの女性たち/
和傘を持つ三人の娘たち/芸者踊り
日本各地の風景
●主な写真
松島/中禅寺湖/上州大渡村/桜田門外諸官省/靖国神社/
川崎大師の鐘楼/鎌倉/宮ノ下富士屋ホテル/伊勢神宮/
三条大橋/有馬温泉/錦帯橋/阿蘇
なかなか研究的視点での文章で監修は小沢健志氏ですが、各項目はそれぞれの専門家の担当者が考察している文章で読み応えがあります。たとえば「風景写真を読む――江戸から東京へ」の章では、明治28年(1895年)頃撮影の「新橋から銀座方面」の写真には、馬車鉄道や行き交う人びとが収められています。また、「文明開化とともに花開く近代の装い」には、「東京名妓写真帳」(明治30年撮影)や「女優川上貞奴」の写真が載っており、当時の髪型の流行などを知ることができます。ほかに、幕末にオランダ総領事を護衛していた侍12人や、丁髷姿の「西瓜売り」の写真などもあり、職人達の当時の活き活きとした姿を写真で確認することが出来ます。
この本は150年前の日本ということになっていますが、実際には明治時代を包含しています。次の写真は浅草門前町の写真です。仲見世の入り口なんですが雷門がありません。実は慶応元年(1865)に焼失しているのです。現在の雷門は昭和35年に再建されたものですから、この写真は明治期のものだという事になります。仲見世は明治18年にレンガ作りの2階建てになっていますからそれ以降、さらに左の柱に「征清師凱旋之日建之むとあり、日清戦争が終結が明治28年というところからその当時の撮影ということが推察されます。
そして、下は開業直前の新橋停車場の写真です。奥手に蒸気機関車も写っています。この本で初めて知りましたが、当初鉄道の開業式は明治5年9月9日に行われる予定だったそうですが、悪天候のために12日に延期されています。菊の紋章入りの幔幕が大きく風で旗めいていますし、屋根の一部が壊れているのが分ります。そして、修繕のための足場が組まれていることから撮影は10日に行われていると推測しています。
まあ、このように写真についての詳しい説明も付いていますし、それまでどちらかというと江戸が中心の写真集でしたが、この本では京都は島原の花街の花魁道中の写真や三条大橋、渡月橋、さらには大阪の大黒橋、大阪の街中、更には錦帯橋や高松の栗林公園の写真なども収録されていて見るのに飽きません。