曲目/
ベルリオーズ/イタリアのハロルド Op.16
1. Harold In The Mountains 14:32
2. March Of The Pilgrims 8:21
3. Serenade 6:28
4. Orgy Of The Brigands 12:28
5.ショーソン/詩曲 Op.25 16:08
ラヴェル/ツィガーヌ
6. Lento 4:13
7. Moderato 4:59
ヴィオラ/ウィリアム・リンサー
ヴァイオリン/ジノ・フランチェスカッティ
指揮/レナード・バーンスタイン
演奏/ニューヨーク・フィルハーモニック
ヴァイオリン/ジノ・フランチェスカッティ
指揮/レナード・バーンスタイン
演奏/ニューヨーク・フィルハーモニック
録音/1961/10/23 1-4
1964/01/06 5-7 マンハッタンセンター ニューヨーク
1964/01/06 5-7 マンハッタンセンター ニューヨーク
P:ジョン・マックルーア
SONY 8843013302-10
バーンスタインのCBS時代の管弦楽、協奏曲エディションの10枚目です。9枚目は以前取り上げていますのでパスしています。バーンスタインは幻想交響曲もそうですが、フランス国立管弦楽団と1970年代にこの曲を録音していますし、映像も残しています。派手な管弦楽法を得意としたベルリオーズは、同じ作曲家として特別な敬意を持っていたのかもしれません。この曲を2度録音している指揮者は他にはロリン・マゼールがいるくらいでしょうか。
作品番号を見ても分るように、幻想交響曲とほぼ同時期に書かれた曲です。この曲が書かれた経緯はwikiに拠ると以下のようになっています。
1833年12月22日、パリで『幻想交響曲』(1830年初演)を聴いて感動したニコロ・パガニーニは、ヴィオラと管弦楽のための作品を書くようベルリオーズに依頼した。パガニーニは名器ストラディバリウスのヴィオラを手に入れていたが、自分の名人芸を披露するための目ぼしいヴィオラの曲がないため、ベルリオーズに作曲を依頼したのである。当時パガニーニはヴァイオリンのヴィルトゥオーソとしてヨーロッパ中を熱狂させており、作曲を依頼されたベルリオーズは大喜びで仕事を引き受けた。当初は、管弦楽と合唱、独奏ヴィオラのための幻想曲「マリー・ステュアートの最期」という作品になる予定であった。 しかし、進行状況を見に来たパガニーニは、独奏ヴィオラのパートが自分の名人芸を披露するには物足りないと落胆した。パガニーニが満足するような曲はとても書けないとあきらめたベルリオーズは、パガニーニに「あなたが満足いくような曲はあなたにしか書けない」と言い、この話はご破算になってしまった。ベルリオーズは途中まで作曲を進めていたこの曲を、パガニーニの意図からは離れ、独奏ヴィオラをともなった交響曲として最後まで完成させることにした。 その初演の4年後、初めてこの作品を聴いたパガニーニは、楽屋のベルリオーズを訪ね、2万フランの大金を「ベートーヴェンの後継者はベルリオーズの他にありません」という賛辞と共に送った。これに感激したベルリオーズは劇的交響曲『ロメオとジュリエット』を作曲し、パガニーニに献呈した。
まあ形の上では「ヴィオラ独奏つきの交響曲」ということになっていますが、楽章が進むに連れてヴィオラの活躍は少なくなっていくのがこの曲の特徴です。しかし、一般には交響曲として分類されること無く、このバーンスタインのボックスセットでも、協奏曲、管弦楽曲の分類で収録されています。そういうこともあってか、あまり演奏される機会に恵まれない曲です。かくいう小生もレコード時代は、FM放送では何度か耳にしましたが、この曲の演奏を一枚も所有していないという現実がありました。
ところで、この「イタリアのハロルド」でヴィオラを演奏しているウィリアム・リンサーは、1943年から1972年までニューヨークフィルの主席を務めていたヴィオラ奏者です。ニューヨーク・フィルに入るまでの1941年から1943年までの2年間はクリーヴランド管弦楽団で主席も務めていました。バーンスタインとの録音では、他にR.シュトラウスの「ドン・キホーテ」でもソロを務めています。
この曲の元になったバイロンの「チャイルド・ハロルドの遍歴」という長編詩に触発されて作曲されたということですが、必ずしも、その内容にはそぐわない副題が付いています。幻想交響曲と同じように自身の体験も盛り込んだ作品といってもいいでしょう。改めて聴いてみるとなかなかドラマチックな内容で、リムスキー・コルサコフの「シェエラザード」のような交響組曲といってもいい作品になっています。
さて、第1楽章は「山におけるハロルド、憂愁、幸福と歓喜の場面」という副題が付いています。ゆっくりとした重厚な主題から開始されます。それが、暫くするとハープが登場し、ヴィオラのソロが始まることで最初のハロルドの憂鬱が表現されています。バーンスタインは、こういう巧みな主題処理はことさらドラマチックに処理しています。例によって4花冠のコンサートの後にこの曲が収録されています。この日は他にプーランクの作品も録音されていますから、流れ作業的にベストテイクをチョイスしているのでしょう。第1楽章は、やや落ち着きの無いざわめきの雰囲気で開始されています。冒頭がちょっと残念ですが、後は尻上がり的に良くなっていきます。ディスコグラフィを調べて分ったことですが、バーンスタインは幻想交響曲よりも先にこの曲を録音しています。
第2楽章は「夕べの祈祷を歌う巡礼の行列」と題されています。バーンスタイン/NYPの演奏はち着いた佇まいの雰囲気で、同じフレーズの繰り返しが延々と続くなか、少しづつニュアンスを替えながら、音楽を飽きさせずに聴かせるあたりは、さすがです。木管の特にフルートの響きが印象的です。
第3楽章は「アブルッチの山人が、その愛人によせるセレナード」とという副題で、民謡風の楽しげな音楽が印象的な楽章です。毎年クリスマスの頃、アルブッチの山中からローマにやってくる牧童が吹奏する民謡を転用しているそうで、伝統的な構成のスケルツォの趣きがあります。ヴィオラはイデーフィクスによる主題が用いられており、ハロルドの人となりを描写しています。ただ、曲調からはあまり目立たず、バーンスタインも色彩感として、木管、フルート、コールアングレ、クラリネットなど次々と奏される木管楽器の響きを目立たせる演出を施しています。
最後の第4楽章は「山賊の饗宴、前後の追想」です。この楽章は幻想交響曲を彷彿とさせます。まあ、薬による幻想はありませんが、ベルリオーズの実体験に基づいた山賊と出会いと対決がベースになっているようでベルリオーズの管弦楽法の醍醐味を味わうことが出来ます。ここでもバーンスタインはドラマチックな演出で、オーケストラを煽るように鼓舞して迫力のあるサウンドを追求しています。多少のアンサンブルの乱れには目をつむって一気呵成にたたみかけるような音楽を作り上げています。特にコーダに向かう盛り上がりはティンパニは強打させるし金管は煽るしで、まるでヴィオラのための曲を忘れたかのように激しいアッチレランドで締めくくっています。
レコード時代はこれ一曲で発売されていましたが、このCDでは余白にショーソンの「詩曲」とラヴェルの「ツィガーヌ」をカップリングしています。独奏はジノ・フランチェスカッティです。CBSにはスターンがいましたから、あまり録音には恵まれていませんが、ワルターと組んだベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲などは名盤です。レコード時代の人ですからCD時代には忘れ去られた感がありますが、個人的にはスターンよりもミルシテインと並んで好きなヴァイオリニストでした。ここでも端正な音楽作りで、技術をひけらかすこと無くリリシズムあふれる美しい音色を聴かせてくれます。